和紙の原料

代表的なものは、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)である。コウゾ・ミツマタ・ガンピが和紙の原料として適している理由は次の通り。

繊維が長く強靱
繊維自体に粘りけがあるので絡みやすい
繊維の収量が多い
栽培をするなど、原料の入手が容易にできる
比較的容易に繊維を取り出せる
できあがった紙が使いやすい

【楮、コウゾ(クワ科)】
クワ科の落葉低木で成長が早く1年で3m余り伸びる。枝さえ残しておけば毎年収穫できる。枝を切り取り、皮を剥いで紙の原料とする。楮の繊維は太くて長く、絡み合って強靭な紙ができる。土佐楮(高知)、那須楮(栃木)、石州楮(島根)が有名。

コウゾは、全国各地に分布し栽培が容易で収量も多く繊維も取り出しやすいことから、日本で一番多く使われている和紙原料。書画以外の生活用具として使われる和紙のほとんどはコウゾ。奈良時代以前には既に使われ始めていた。薄美濃紙・奉書紙・障子紙・傘紙・型紙原紙・書画用紙・版画用紙・冊子・提灯紙・漆濾し紙など。楮の靱皮繊維の長さは平均10ミリ程度で長く、絡みやすい性質をもつ。でき上がった楮紙は強靭で、揉んだり、折ったりしても洋紙などとは比較にならないほど丈夫である。

楮畑もあるが、宍粟市千種町では、田畑に農作物(米、野菜など)を植え、日のよく当たるその周囲(田畑の枠)に楮を植えることが多い。

【三椏、ミツマタ(ジンチョウゲ科)】
ジンチョウゲ科の落葉低木で枝が3つに分かれているので三椏といわれている。楮と同じように刈った後から芽がでてくるが、毎年収穫はできず、1度収穫すると3年待たなくてはならない。三椏の繊維は短く強度は楮に劣るものの、緻密な紙肌で油との相性がよいため、印刷に向いている。江戸時代前期頃から製紙原料として使われ、日本紙幣の原料の一部としても使われる。三椏の靱皮繊維の長さは平均4ミリ程度である。強靭性ではやや劣るが、繊細で弾力性がある。でき上がった三椏紙は紙肌が柔軟で滑らかで温雅な光沢を持ち、書道用紙や印刷用紙等に適している。

三椏は主に岡山、高知、徳島、鳥取、愛媛、静岡、山梨で栽培されている。お札・写経用紙・証券用紙・箔合紙など。宍粟市千種町では、山中の北側斜面で杉の木の間に植える。三椏は日のたくさん当たるところでも生育するが、日当たりが良すぎると枝や葉が盆栽のように横に広がってしまい、刈取り作業に手間がかかり、和紙づくりの作業に適さない。原料の木はできるだけまっすぐにすらっと伸びた形が理想。したがい、日が少しだけ射す北側斜面の杉の木の間に植えると、植物の習性で日の光をもとめ、理想的なすらっと背の高い姿になる。また、千種町のように雪が多く降る地方では、三椏に雪が被ると枝が折れてしまうため、杉の木の下で雪が被らないように植える。

【ガンピ(ジンチョウゲ科)】
ジンチョウゲ科の落葉低木で暖地の山に、日本では伊豆半島から九州の雑木林に自生する。栽培が難しく野生のものを採取しているので供給量に限りがある。雁皮の繊維は三椏より細長く、強靭なためタイプライターや謄写版原紙といった極薄紙の原料として使われていた。光沢感とパリパリとした触感。除虫作用があり、かつては保存用の記録用紙にも使われていた。現在では、銅版画用紙、箔打紙、表具用紙などに使われている。

奈良時代頃からコウゾに混ぜて利用されていた。当時はコウゾの繊維に含まれる粘り気を補うために用いられたが、トロロアオイから抽出されるネリを加え始めてからは、単独の原料になったと考えられている。雁皮の靱皮繊維の長さは平均3ミリ程度で粘着力がある。でき上がった雁皮紙は半透明で光沢があり、最も繊細で湿った状態におかれても丈夫であり、虫の害に強い。繊維が短く緻密なためスベスベした感触の紙になる。鳥の子紙・間似合紙・日本画用紙・版画用紙・箔打ち紙・襖紙など。

雁皮は台切り(根を残して刈り取り、翌年ふたたび根から伸びた枝を収穫する方法)できず、いちど刈り取ると生えてこない。雁皮は秋になると小さい種ができ、その種が地面に落ち芽が生えて自生する。つまり、雁皮は根から出るのではなく、種から出る。一方、楮、三椏は台切りしてもふたたび枝が出てくる。雁皮は、広葉樹が生えている山の南側で、かすかな日差しがあるところ斜面によく自生している。雁皮は5年から8年で枯れ、枝の節にカビのようなものができると、枯れてくる。雁皮は病気にかかりやすく、種を植えて育てるのは難しい。すらっと背の高い樹形が理想。

【カジノキ(クワ科)】
靭皮(じんぴ)繊維が長くて柔らかく強いため、古くから衣料あるいは縄に用いられた。名尾和紙や白石紙子で用いられる。白石では冬の間に凍らせる。凍って溶けてを繰り返すことで繊維が分解されてしなやかで強い紙になる。

カジノキの乾燥は、時々縛る場所を変える。